客船、外国籍船で働くなら尚更…語学は必要不可欠かもしれない。やはり基準になるのは英語になってしまう。
船のサイズによって従業員数は前後するが10万トンクラスの重さの船だと約1000人のクルーがいて出身国、地域は様々でとてもインターナショナル。
Sクルーズはアジア、オセアニア地域を航海している。ウエイターが所属するホテルデパートメントは全員アジア系で構成されており、英語が第二言語なのは皆同じ。
●英語を使わざるを得ない職場環境
人種も文化も宗教も違う船内組織をコントロールする枠組みとして英語が必要。
話すレベルや頻度はポジション次第なのが正直なところだが、独特のアクセントがあったり、文法無視したり、うまく意思伝達ができないこともある。
でもまずは諦めず口に出すのが何より大事。間違えるのは恥ずかしいことではない。
話しかけやすい人柄、柔らかい表情、仕事が早く英語も早口なフィリピンのジョリーくん。
ウエイターは忙しく就業時間も長いので無表情だったあの頃…早く仕事終われとしか思わず時計ばかり見ていたが、どう効率的に疲れずに働くかを極めてたら徐々に楽しめるようになった。
少しずつ他のクルーとも打ち解けて笑顔に。ワンピースで幼少期のロビンにサウロが言った「苦しい時は笑ったらええ」が心に染みる…
ムンバイ出身のインド人上司は本当にカレー好きで実家に帰ったら毎日カレーらしい…右のシェフはゴア出身。
話は変わるが、秋葉原でハラルフード認定された緑のココイチを見つけた。オリンピックを前により国外に目を向けた流れになるのは良いこと。ビーガンとは言わないがベジタリアンレストランももう少し増えていい気もする。
時を戻そう。
セカンドハンドショップは彼らの大好物。ブックオフ、ハードオフ、マンガ倉庫は特に根強くゲーム、フィギュアなどは自国で買うより安く品数の豊富さは魅力。まさにこのジャンルこそ日本の強みといえる。
セカストなどの古着屋では客がほぼクルーみたいなこともしばしば。服ばかりあってもほぼユニフォーム着てるから要らないのは承知で筆者も足を伸ばす。
中でもフィリピンは、見てくれをとても気にする国民性。人気の中古ブランドバッグは親にプレゼントするのだそう。
箱いっぱいにつめた食品は国際便で実家に郵送する謎の風習があり全員、安定のマニラカーゴ。
クルーバーでは各国の建国、独立記念日に出身クルーが主催してパーティーを開くことも。これはネパールの時🇳🇵
仕事中には見たことない笑顔…こういった同じ国の人たち同士で喋る時はもちろん現地の言葉なので何もわからないけど楽しそうで何より。
飲んで踊って日付はまたぐが次の日ちゃんと働いてるのが偉い。そんなに踊る?ってくらいみんな終盤は踊る。
Sクルーズの後、筆者はよりワールドクラスなPクルーズに移籍するがそこにはヨーロピアン、ラテン系、南アフリカと世界中からクルーが集まっていた。
そうなると周りには自分よりもっともっとずっとずっと流暢に英語を操れる同僚やネイティブが当たり前に側にいるのでどうしたらもっと分かりやすく、より上手く言えるか聞いて気に入った英語の言い回しやフレーズを真似するようにしていた。
ポジションをウエイターからフォトグラファーに変えて心機一転。
マネージャーはポルトガル→イギリス→ルーマニアとヨーロッパへ進出。
今まで英語環境を渇望していたが船に乗ることで身の周りは激変し、相乗効果でSクルーズの時よりも英語はかなり伸びた実感がある。
そしてクルーたちの母国語のあいさつも覚えて損はない。いざその国のゲストと接した際にとても喜ばれる。
●勝手に身につく船言語(シップランゲージ)
とっさに言われても何のことかさっぱり分からない専門用語がたくさん存在する。
例えば、船の左右のことをポートサイド、スターボードサイドと呼んだり、外に出る時に渡る橋はギャングウェイなど。ガラディナー、コリドー、リド…言い出したら止まらない??
これらは世界基準でどのクルーズ会社でも統一。
各国の国民性や言動の傾向などがおもしろいくらいパターン化してくる。にしても彼のスピーカーはデカい。
ここからがかなりクセの強い内容で単語、文法にも色んな言語でたくさんの独特な表現が飛び交う。
驚きや失望のとき、ため息の代わりに出る中国語の「哎呀妈呀」(あいやまーや)、韓国語の感嘆詞である「아이고 」(あいごー)、、、ついつい日本語より出てしまう。
もう動かない、使えないものを指す「カプッ」はもはや何語か分からない…「バナナ🍌」は便利ワードで怒られた→バナナもらった、使えない人→あの人ほんとバナナ…など応用が楽。
他にもいろいろあるけどちょっと忘れ気味だがFワードはそう簡単には忘れられない。
ネパール語の 「Machikne 」(まっちきりにー)、マレー語の「Cok」 (ちょっ)などは人前で口に出すべきでない類だが無駄に覚えやすいので裏で多用…。
また、中国人クルーは英語の語尾に「吗」(ま?)をつけてむりやり質問形にするし、フィリピンクルーは語尾に「po」(ぽ)をつけて敬語にしたり、「no?」(の)をつけて質問形にしたりとまあ自由。
日本人は完璧な発音やイントネーションに気を使いすぎてると聞くが本当なのかもしれない。それで英語を言わない、使わないなんてもったいない。
気持ちを込めて単語を繋げればコミュニケーションは取れる。英語を勉強することでそれをいかに楽に、早く、簡潔に伝えられるか。
●第三言語に挑戦してみよう
難しく考えず、あいさつの「Hola!」(おら)や、別れの際、電話を切るときの「Ciao!」など英語以外でもイタリア語、スペイン語などがよく使われる。
同郷の人(筆者の場合は同僚の日本人クルー)のことを中南米のスペイン語で「パイサノ」と呼んだりゴミのことを「バスーラ」と言ったりね。
フィリピンとスペインは関係性が強いので納得。
バイリンガルからのトリリンガル…日本人でもこれがあると本当にかっこいいけれど、脳内のキャパには限界あり。
遊び半分くらいで覚えるのが丁度いいのかも。
こうして毎日多文化、多言語な仲間たちと数ヶ月間、朝〜晩までいっしょに働き、同じ釜の飯を食べる船上生活をしていると言葉の壁という概念は消え去ってしまう…。
不思議な縁で、時期は違えど同じ旅館でリゾバをし、あの広いオーストラリアでピンポイントに同じファームで一緒に働き、たまたま同じ日にシンガポールで旅行することが判明し会ったり…そしてついには同じ船に乗ることになった北海道出身のお姉さま。
何かしら次もありそうな予感…お世話になります。
クルーのアルコールプライスは千ベロに負けない。
火災報知器が至る所にあるのでしっかり分煙。
酒とタバコはクルーの趣向品と言うべきか…航海士のオフィサーやエンジン系といった普段表に出てこない人たちともランクやポジション関係なくフランクに話せる場、そうクルーバー、韻を踏んでしまった。
何にせよ、ソーシャライズが上手な人ほど英語の上達が早いのは間違いないというのが今回の結論。
近年、語学は勉強して体得するものという考えは時代の流れとともに変わりつつあるのかもしれない。
英会話YouTuberの地位は確立され、ドラえもんの翻訳コンニャクはポケトークに形を変えた。AIの技術向上や翻訳機器の発展によって今後、外国語でのコミュニケーションはどんどん楽になるだろう。
使えるものは使った方がいいかもしれない。だけど…
やはり実際に自分の口から初まる自然な会話、相手と知り合い、気持ちが通う時そこには何物にも変えがたい価値があるのではないかと筆者は思う。
英語環境で日本語を求められる職場も世の中にはあるし、日本語を喋るだけで頼られる職場もある。
語学の勉強をやり続ける限り何か新しい世界が開けるかもしれない。世界は広いから…続く