乗船クルーになる前に船員学校に通うことでよりローカル目線で彼らの生活環境や人間性を観察できたのは大きな経験だった。
まずは雇用形態の話をするが日本人クルーは直接雇用( Direct hiring )しかし本来は間接雇用でエージェントがおり彼らが仕事を斡旋するのが基本形。 フィリピン人の場合は事前にある程度ポジションを絞りその勉強、アルバイト経験を陸で積みながら乗船のタイミングを待つのが一般的とのこと。
朝から昼のクラスは学校が終わると足早に仕事に向かう人たちが大半。 学費は会社持ちの私たちにとって複雑な心境になる事もあったがなるべく考えず、まずは乗船のために毎日のテストをパスすることに集中した。
そしてついに最終日、実技試験のためスクールバスで郊外にある施設へ向かった。片道2時間かかるためこの日の朝はいつも以上に早く真っ暗の朝4時半にホテルピックアップの5時出発。
全身ツナギを着用。実際の炎を前に消火訓練したり暗闇の中にグループで入りマネキン救助をしたり…座学でやったことの復習、実践を行う。
最後はプールに飛び込んで輪を作った。これは本当にアバンドンシップした際にやるらしいがその時は来ないのが大前提。 エンジンのボスが言うに今の船舶技術ではタイタニックのような事は絶対に起きないそう。
クラスで仲良くなった3人組、そして先生と記念撮影。
バスが走るべきではない細道を抜けてゆく。教会を抜け道が開けるとパイナップル畑が広がっていた。
疲れがどっときて眠かったが真っ赤な夕陽が美しかったのは鮮明に覚えている。
マニラにいるととにかく教会をたくさん目にする。その理由として過去にはスペインやアメリカに統治されていた歴史を持つためカトリック系が多くアジア最大のキリスト教国だ。
イントラムロスとよばれる城壁都市にはサンチャゴ要塞やマニラ大聖堂などメジャーな観光地が集まる。
マニラ中心部のマカティだけはしっかりインフラ整備され限られたエリアだけ見れば東京とあまり変わりないようだった。 市内ではバイタクはもちろん、ウーバーやグラブなどの配車アプリが日本よりずっと充実している。それに乗って一歩シティを外れれば風景は一変。
東南アジアあるあるで気になるのは鼻をつまみたくなる異臭と埃、散乱したプラスチックゴミ。 シングルマザーやストリートチルドレン、野良犬といった光景ばかりが目に入る。
中でもチャイナタウンの汚染レベルは桁違い。
パシグ川を越えて貧困層が集まるというこの地区…
教会の敷地内にゴールリングを置くほどフィリピーナはバスケ、NBA、ナイキが大好きなお国柄。
たまたま入ったビノンド教会ではウエディングが行われていた。ピンクゴールドのゴージャスな内装は斬新。
世界の大手クルーズカンパニーが続々と参入する東南アジア、ASEAN諸国においてフィリピン、マニラは大きな鍵を握るポートの一つだと思う。
近年の経済成長率5〜6%の数字が示す通りフィリピン経済は上向きだ。国内でのリッチ層が増え続けているためゲストとして乗船してくるからだ。彼らとクルーの間にある経済格差は凄まじくこれがある意味、資本主義の縮図なのかもしれない。
話は Compass school に戻り10日間の授業、実技を修了し待ちに待った船員手帳を貰った。
船員手帳の証明写真はローカルカメラショップで私服で撮影し、ネクタイとスーツを合成したもの。 発行がバハマなのは乗船予定の会社の船籍が関係している。
必要書類を揃えて校舎に別れを告げた最終試験翌日。メールが人事部から届き行先が告げられた。夜中にはどうやらマニラを飛んで那覇…からの 宮古島?!
とにかく準備はできた。辞退しようとするほど追い込まれていた健康診断から5ヶ月…銀座と奥飛騨のバイト、そしてマニラの船員学校を経ていよいよフリーターは満を持して船に乗る。